安部公房「砂の女」(新潮文庫)

最初はなにか蟻地獄のような場所に不気味な女がいて、なんらかの罠にかけられた男がその女と一緒に砂の中に沈んでいく、といったストーリーを予想していた。当たらずとも遠からず。

「砂の女」


 正直に言うと、怖い。ひょんなことから男は砂に埋もれていく家に閉じ込められてしまった。ただ一夜の宿を求めたばかりに。前半60ページを読んだだけでぞっとする恐ろしさがある。このままこの男は砂に埋もれる家から逃げられないのだろうか。集落ごと砂に埋もれていく中、このまま日々砂を掘りつづける人たちはどこかしら狂気を帯びているのではないかと思う。(May 11, 2002)

「もっとも、欠けて困るようなものばかりだったら、現実は、うっかり手もふれられない、あぶなっかしいガラス細工になってしまう……要するに、日常とはそんなものなのだ……」

 読了。あんなに逃げたかったのに、どうして小さな発見をみんなに知らしめたいだけの理由で男は部落から逃げ出さなかったんだろう。そもそも男がこの部落に来たきっかけは新種の虫を見つけるためだけだった。そして昆虫大図鑑に虫の学名と一緒に自分の名を載せるという夢のためだった。なにかひとに認められたい、というそういう欲求がこの男にはあるのだろうか。だから、水に関する小さな発見を話す相手を待つために脱走する良い機会を逃してしまったのだろう。

 ところどころハラハラする場面もあり、細かい活字でびっしり埋まった本文を追うのは精一杯だったけれど、話としてはそこそこ面白いと思う。もう一度読み返したら、また新しい発見があるのかもしれない。(May 15, 2002)



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